生産性向上と消費者の収入(給与)
日本は国際的に見て労働生産性が低い。その要因は、
・生産者サイドの要因(フレックスが発達していないなどの労働時間の硬直性や
経営判断が遅い等)
・消費者サイドの要因(より品質の高いものを要求する等)
・社会環境変化による要因(個人情報保護、インターネットなどの風説流布等)
が挙げられる。
比較として挙げられる国は、例えばノルウェーとギリシャがあり、これらの国よりも日本は労働生産性は低い。
なお、 ノルウェーはフレックスなどの働き方が発達しているなどの違いがあるが、人口が500万人であり、人口1億2千万人の日本と単純な比較は難しいと考えている。また、ギリシャの人口は1千万人で日本よりも同様に少ないという要因もあるがそれよりも、ギリシャは非常に高い失業率が影響していると考えている。すなわち、景気悪化で、賃金の引き下げにつながっていること(生産性は向上)や生産性の高い企業しか残っていないということだ。
会社経営者は「無駄」を省いて生産性の向上を高めてきた。この生産性の向上は基本的に(生産量が変わらなければ)業務が減るため、給与のカットにつながってしまう(収入の減少)。(極端な話、賃金カットすれば生産性向上につながることになり、ギリシャと同じになってしまう。)これは、結果として消費(支出)の減少につながり景気を悪化させる可能性がある(いわゆる合成の誤謬)。
非効率な業務や賃金は生産性を低くさせる。これらは、生産性向上の観点から「コスト」であり「無駄」なものであり、削減していくのは望ましい。また、生産性向上により、価格が安くなれば消費者にとっても望ましいものだ(消費者の支出の改善)。しかし、日本では「無駄」(非効率な部分、消費者価格高い)が残っているから、失業率を低く保つことができた可能性があり、これにより、所得格差が他の国よりも低くなっている可能性もある。
スマホなどの技術革新で消費者の支出は恩恵を受けた(便利になり支出が減った)一方、業種別にみれば、出版業界、音楽業界、カメラメーカーなど多くが打撃を受けた(これらの業種の給与(一部消費者の収入)の減少)。
今後さらに人工知能などの技術革新による業務効率化・生産性の向上が進むことになる。経済を良くするには、消費者の支出だけでなく、消費者の収入もバランスよく改善していく必要があるのだ。
(参考)
金融政策の限界
(久々のアップです)
基本的に、個人がお金を使ってモノやサービスを買うことで景気は良くなっていく。
財政政策と金融政策の違いは下のとおり。個人や企業に直接的に働きかける財政政策の効果は大きい。
金融緩和では、銀行に現金が積み上がるが、企業・個人までは回らない。
アベノミクスで実施した政策は次のとおり。
金利が下がったからといって、個人が住宅ローンを増やしたり、企業が投資の借り入れを増やす明確な傾向は見られない。逆に今の借り入れの借り替えが起こり、銀行の収益を圧迫した。(銀行にお金がたまっている状態だ。)
なお、マネタリーベースが増えたのにマネーストックが増えていないのは、次の図を見れば分かると思います(個人・企業に行きわたっていない)。
しかし、日銀の金融緩和の総括はどういう結果になるのでしょうね。
(参考)
固有ベクトルの意味(数学メモ)
平面(2次元)では、一次独立な2本のベクトルで、(ベクトルの加法とスカラー乗法で)全平面を表せる。(x,y)=x・(1,0)+y・(0,1)であり、(1,0)と(0,1)が一次独立な2本のベクトル(基底ベクトル)ということである。ここで、基底を変えてみる。例えば、(1,1)と(-1,1)を基底ベクトルとすれば、次のとおり新しい座標系ができる。(座標変換後の座標はPの逆行列を左からかければ求まる。ここで、Pは新しい基底ベクトルを並べた行列。)
http://www.math.ryukoku.ac.jp/~tsutomu/LA1/11/lecture1103.pdf
この新しい基底ベクトルの取り方は無数にあるが、ある一次変換に対し、新しい基底ベクトルを固有ベクトルとすれば、簡単に一次変換を表すことができる。
算式で表せば次のとおり。
役員報酬と利益偏重
〇日本の役員報酬が高額化している。
〇欧米と日本の働き方等の違いは次のとおり。
欧米タイプ |
日本タイプ |
個人主義・利己主義 (他人をけり落とす) |
(出る杭は打たれる) |
仕事とプライベートを明確に分ける |
仕事とプライベートを混同(飲み会でも仕事の話) |
トップダウン(経営陣主導) |
ボトムアップ(現場主導) |
上司が即時決定 |
上司で話が決められないので決定に時間がかかる |
上司は部下の業務内容を熟知 |
上司は部下の業務内容の詳細は知らない |
経営陣の独創主導 |
従業員の改善主導 |
経営陣が遅くまで働く |
従業員が遅くまで働く |
2層化(エリート(経営者)とノンエリート(労働者)) |
2層化しているが一体的 |
能力主義(仕事ができれば年齢に関係なく昇進) |
年功序列(仕事ができなくても昇進) |
経営陣の報酬高額 |
経営陣の報酬は欧米ほど高くない |
上司優秀 |
部下優秀 |
効率的 |
非効率 |
即戦力重視(エリート学生は大学で猛勉強、ノンエリート業務はマニュアル化) |
育成重視(学生は大学で遊ぶ) |
転職前提 |
終身雇用 |
利益至上主義 |
社会貢献主義 |
株主重視(従業員給与は減らす方向) |
従業員重視(従業員給与は増やす方向) |
貧富の差が生じる方向 |
貧富の差はあまり生じない |
〇アベノミクスの推奨する利益重視・株主重視になるほど、日本の会社は、これまでの日本的な社会貢献主義・従業員重視から欧米的な会社に変わっていく。非正規が多くなり貧富の差が進むという望ましくない方向に変わっていくのだ。
「アベノミクス 第三の矢」としてのコーポレートガバナンス改革|EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 「レポート」|EY総合研究所
人口減少ボーナス
〇人口オーナスのオーナス(onus)とは、「重荷、負担」という意味。働く人よりも支えられる人が多くなる状況である。日本では、少子高齢化が顕著になってきた90年頃から人口オーナス期に入ったとされる。
http://www.meti.go.jp/committee/summary/eic0009/pdf/014_04_00.pdf
〇生産年齢人口(15~65歳)の人口割合の各国年次推移(G20、1990~2014年)は次のとおり。日本は、他国に比べ生産年齢人口が急減している。なお、この急減は、日本の死亡改善(長寿化)が他国よりも良好なことによる高齢者割合の上昇も要因のひとつ。
〇若年齢層(15歳未満)の人口割合の各国年次推移は次のとおり。日本は、低下傾向だが急減してはない(ドイツ、イタリアと同水準)。先進国の割合は、全般的に低下傾向。
(参考)主なアフリカ諸国の若年齢層の人口割合は次のとおり。多くの国は40~50%程度と高い水準を維持。
〇女性の活躍がアベノミクスに掲げられている。女性の割合の各国の年次推移は次のとおり。日本も含め全般的に女性割合は50%程度。
〇日本では生産年齢人口が減少していくのは事実だ。このため、日本で経済成長させていくためには、生産性の向上が必要とされている。この「生産性の向上」は「仕事が減っていく」ということだ。ロボットが受付をする「変なホテル」は、世界一生産性の高いホテルを目指したものだ。確かに従業員は少なくて済むので、生産性は大幅に向上する。
・アマゾンが指向しているのは究極の生産性であり、経営者のみ、すなわち従業員ゼロで、米国全土の流通を担うのだ。企業から自動運転トラックにより商品を受け取り、巨大倉庫は機械で一括管理し、インターネットで注文を受け、配達はドローンだ。この究極の生産性により、アマゾン以外も含めた流通業者である数百万人の雇用は消失するのだろう。
〇生産性が急上昇していけば、雇用は減少していく。これは貧富の格差を拡大させることとなる。すなわち、仕事に就ければ高い生産性による給料獲得の一方で、以外の人は職に就けない状況になる。その結果、株主中心の資本主義は修正され、次第に大きな政府に移行していくこととなる。その際には大きな混乱を招くだろう。
〇日本では非効率性を保ってきた(この意味は利益至上主義ではない、ということ)。この非効率性が、ある意味で雇用者を守ってきた。ただ、今後はグローバル化推進で、見直されている。すなわち、大手企業のなりふり構わない利益至上主義だ。
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〇日本でも今後、生産性の向上が急上昇していくだろう。大企業は、これに向けて着々と準備を進めてきた。すなわち、非正規雇用の増加だ。正規雇用者は簡単には解雇できないが、非正規雇用者は簡単に解雇できる。景気の良いときは雇用を増やし、生産性が向上する、もしくは、景気が悪くなったときに解雇することになる。これは、スペインで行っているのと同じ。
〇生産性向上に伴い日本でも雇用数は減少していくだろう。ただし、生産人口自体が減少していくので、他国よりも大きな混乱は生じない可能性が高い。これが日本の人口減少によるボーナスなのだ。(ただ、これは移民政策により移民を大規模な受け入れを行わない前提だ。将来の若者の職の確保のためには、移民の増加は反対すべきなのだ。)
リカードの比較優位
〇リカードの唱えた比較優位とは、各国が得意な分野に特化することで、全体の享受できる利益が上がること。TPPなどの自由貿易を推奨する根拠になっている。
〇この比較優位は、数学で言えば、2直線の高さ(絶対優位)ではなく、2直線の傾き(比較優位)が重要ということである。次のモデルを考える。
・A国とB国は貿易しておらず、ともに車と米を生産。
・A国で車5台、米5kg生産していて、車の生産を1台増やせば、その分、米の生産が1kg減る。また、B国では車3台、米3.2kg生産していて、車の生産を1台増やせば、その分、米の生産が1.6kg減る。
・すなわち、A国は車だけ作れば10台、米だけ作れば10kg。B国は車だけ作れば5台、米だけ作れば8kg生産できる。グラフは次のとおり。A国はB国に対して絶対優位(A国の高さが高い)である。
・ここでA国とB国が貿易を行った場合、生産を減らしても貿易で商品を融通できる。A国が車1台増やして、B国が車1台減らせば、A国とB国の合計で車の生産量は変わらない。しかしながら、米の生産量は合計で0.6kg増加する(=A国の米の減少1kgとB国の米の増加1.6kg)。(これは2直線のそれぞれの点から、左右分かれて高い方に進むイメージ)
・A国がもっと車の生産に、B国がもっと米の生産にそれぞれ特化すれば、1つの解として、車9台(A国9台、貿易前は8台)、米9kg(A国1kg、B国8kg、貿易前は8.2kg)と、これまでの合計の生産量を上回ることが可能だ。
⇒絶対優位性にかかわらず、比較優位なモノに注力することで、合計での生産量が増える(消費量が増える)。すなわち、貿易により、各国が得意な分野に特化することで、全体の享受できる利益が上がることになる。
〇このリカードの経済モデルでは、単純化したモデルなので当然のことながら現実とはあっていない。最もあっていないと感じるのは、収益性を考慮しない部分だ。国の生産を担うのは大部分が企業であり、企業は収益性(利益)を中心に行動する。先ほどのモデルでは車1台と米1kgとは比較できないが、企業の論理では比較できる。すなわち、どちらがどれだけ利益が出るかなのではないか。
・1980年代の中国における繊維業の特化は、リカードの比較優位で説明される場合もあるが、人件費が安いことによる収益の優位性による企業の論理だ(企業の理論は「何かもうかるのか」ということ)。
〇日本国内の都道府県間は、自由貿易だ。リカードの理論ではなく、都道府県における収益優位が働いて今の生産状況になっているのだろう。
〇自由貿易では、企業の論理に基づき、その国の中で他国に対し相対的に収益性・生産性の低い業種は淘汰され、寡占・独占が進むということを意味する。生産性が高まることで大企業は更に強くなり(TPPのメリットを享受)、貧富の差を更に拡大させていくのだ。
弁護士の憂鬱
〇弁護士人口は平成 12 年の約 1 万 7000 人から平成24年に約 3 万 2000 人とほぼ倍増。これは、小泉政権時代に閣議決定された司法改革の中で、平成22年に司法試験の合格者数の目標を3000人に掲げたことによるもの。
〇確かに、欧米諸国に比べ弁護士の割合は極端に低いことから、グローバル化を推進している中、もっと増やしたいという気持ちは分からなくはない。ただ、結果として、後に述べるようにその判断は誤りであった。人は増えたが仕事は増えなかった。訴訟大国アメリカや、陸続きの隣国と争いを続けてきた欧州と、争いを避ける日本では素地が違いすぎたのだ。(和を以て貴しとなす - 故事ことわざ辞典)
・人口10万人あたりの弁護士人数( http://www.moj.go.jp/content/000102262.pdf(P34))
日本 | アメリカ | イギリス | ドイツ | フランス |
25人(H24) | 368人 | 228人 | 190人 | 83人 |
〇グレーゾーン金利の禁止(平成22年完全施行)に伴う過払い金での弁護士報酬の増加はあった。武富士では累計2兆4000億円の過払い金支払があった模様で、そのうち報酬割合を20~40%とすれば、4800億円~9600億円が武富士分だけで弁護士に支払われていると考えられる。ただ、これは一時的なものだ。以外の弁護士案件業務が大きく増加した訳ではない。
・過払い金返還請求にかかる弁護士費用、結局いくら? [過払い金返還請求] All About
〇当時1000人程度だった合格率を、一挙に3000人とした人数の根拠はなく、弁護士数をいたずらに増やしたことで様々な問題が生じている。(法科大学院定員割れ問題 - Wikipedia)
・弁護士未登録者の増加(合格しても4人に1人は法律関係の職につけない)
・「軒弁」などと呼ばれる弁護士の増加(「軒弁」とは既存の法律事務所に所属するが雇用されていない弁護士で、軒先を借りているという意味。事務所からの固定給は原則なく、収入は自力で稼がなければならない)
・年間所得の著しく低い弁護士の増加
また、さらに人工知能(AI)の 進化が弁護士の業務を奪うという予測もある。
〇懸念しているのは、弁護士が増えたことで、訴訟を煽る、すなわち、「和を尊しとなす考え」が弁護士主導で失われていくのではないか、ということだ。そのような事のないよう、原告側の弁護士の意図について、我々もできる限りチェックしていく必要がある。
・サッカーボール裁判は平成16年度の事故。原告側の弁護士は、なぜ裁判を起こしたのか、その理由を明確にするべきだ(英会話教室NOVAの裁判のような志はあったのか?)。
(父親のコメント:私たち夫婦、息子にとって苦悩の10年でした。被害者の方にケガを負わせ、結果的に死亡したという事実を厳粛に受け止め、親としての道義的責任を痛切に感じています。息子は自分の蹴ったサッカーボールが原因で人が一人亡くなったということで、ずっと罪の意識を持ちながら、思春期、青年期を歩んできました。ただ親として子供を守ってやりたいと思ったのも事実です。息子は当日の放課後、学校のグラウンドで、友人とフリーキックの練習をしていたに過ぎません。もともとあったゴールにむかってボールをける、法律のことはよくわかりませんが、このことが法的に責められるくらい悪いことなのかという疑問がずっと拭えませんでした。)
・その他、違和感のある訴訟も多い。
弁護士 小松亀一法律事務所_弁護士等_弁護士界の憂鬱-”ポスト過払いバブル”はなんでもあり雑感4
〇もし、仕事を増やす可能性があるとすれば、海外案件だろう。こういう状況になってしまった以上、弁護士こそ国内ではなく、グローバル化を目指すべきだとは思う。また、(ほとんど増えてはいないが、)企業も海外の訴訟リスクに備えて、多いに弁護士を活用する必要がある。(ただ、経験豊富で利益至上主義の海外の弁護士に勝つのは難しいだろうが。)
〇結局、この「しくじり」が示唆するものは何か?
・経済学で言えば、規制緩和などで供給(弁護士)を増やしても、需要(裁判)が増えないとうまくいかないことを示している。これは、デフレを供給の問題と考える新古典派と、需要(財政政策)も含めて考えるケインズ派の問題と同じであり、このケースでは、新古典派の考えでは駄目だったね、という結論だ。(供給増やしても、需要増えなかったね、ということ。ただし、このケースで需要(裁判)を増やすのは海外案件などしか意味はないが。なお、政府ももう少し法曹人口の雇用を増やすべきでは?)
・もうひとつは、政治主導は間違いも多いということだろう。今、政府が進めようとしている国立大学の人文系学部・大学院、規模縮小は大丈夫か?