人口減少ボーナス2

日本の人口減少によるボーナスについては、過去にブログに書いた。

安倍首相も同様のことを言った。人口減少を課題視する風潮を変えたいのだろう。

「日本は高齢化しているかもしれません。人口が減少しているかもしれません。しかし、この現状が我々に改革のインセンティブを与えます。日本の人口動態は、逆説的ですが、重荷ではなくボーナスなのです」

 

改めて確認すると、確かに人口は減少する見通しだ。2030年では、2013年から8%減少する。

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 http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf

 

生産年齢人口の減少は、単純平均で毎年0.8%だ。

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 一方で仕事の減少を見てみる。どれだけ生産性が向上したのか見れば、(需要が増えていない状況では、)仕事の減少につながる。

(1)経済学者の飯田泰之は「放っておいても人間は毎年平均2%ずつくらい効率が上がる。効率化の原因は機械だけでなく、知識・思考法も生産性を向上させる。経済成長が0%だと、必然的に要らない人がでてきてしまう」と言っている。(飯田泰之雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、170-171頁。)

経済成長 - Wikipedia

毎年2%効率が上がるというのは、毎年2%仕事が減るということだ。

 

(2)オックスフォード大学のオズボーン准教授は、今後10~20年程度で、約半分の仕事がなくなると予測している。20年後とすれば仕事の減少は平均的に毎年2.5%(=50÷20)だ。

gendai.ismedia.jp

 

(3)OECDデータでは、日本の一人当たりの労働生産性は毎年1.2%改善してきた。 f:id:beatle_hat:20160924183526j:plain   出典:OECD  

   資料:GLOBAL NOTE(http://www.globalnote.jp/post-10473.html

 

以上、例えば(2)なら仕事の減少が毎年ー2.5%の一方で、人口の減少は毎年ー0.8%にとどまる。人口減少を上回って、仕事は減っていくため、単純に言えば、その差の1.7%は失業ということになる。すなわち、人口減少はより失業を減らせるという点で、ボーナスなのだ。

(当然ながら、新たな業務に取り組むことや、一人当たりの業務を減らすことなどがあるので、その分すべてが失業率に結びつく訳ではないが。)

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安倍首相は「人口減少はボーナス」と説明した同じ講演で、「世界最速級のスピードで永住権を獲得できる国になる」とも言っている。また、1億総活躍社会を目指し、働く人を増やそうとしている。これらの「働く人を増やすこと」(労働供給)は、人口減少ボーナスにはつながらず、失業者が増えることにつながる。政府主導で弁護士資格を増やして辯護士の失業者が増えたような過去の失敗は繰り返さないように、まずは1億総活躍社会などの「労働の供給」を増やすのではなく、仕事そのもの(GDPを600兆円に増やすためにも公共事業などの「労働の需要」を増やすことに取り組んでほしい。 

 

 (参考) 

 

 

 

生産性向上と消費者の収入(給与)

日本は国際的に見て労働生産性が低い。その要因は、

 ・生産者サイドの要因(フレックスが発達していないなどの労働時間の硬直性や

            経営判断が遅い等)

 ・消費者サイドの要因(より品質の高いものを要求する等)

 ・社会環境変化による要因(個人情報保護、インターネットなどの風説流布等)

が挙げられる。

比較として挙げられる国は、例えばノルウェーギリシャがあり、これらの国よりも日本は労働生産性は低い。 

なお、 ノルウェーはフレックスなどの働き方が発達しているなどの違いがあるが、人口が500万人であり、人口1億2千万人の日本と単純な比較は難しいと考えている。また、ギリシャの人口は1千万人で日本よりも同様に少ないという要因もあるがそれよりも、ギリシャは非常に高い失業率が影響していると考えている。すなわち、景気悪化で、賃金の引き下げにつながっていること(生産性は向上)や生産性の高い企業しか残っていないということだ。

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会社経営者は「無駄」を省いて生産性の向上を高めてきた。この生産性の向上は基本的に(生産量が変わらなければ)業務が減るため、給与のカットにつながってしまう(収入の減少)。(極端な話、賃金カットすれば生産性向上につながることになり、ギリシャと同じになってしまう。)これは、結果として消費(支出)の減少につながり景気を悪化させる可能性がある(いわゆる合成の誤謬)。

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非効率な業務や賃金は生産性を低くさせる。これらは、生産性向上の観点から「コスト」であり「無駄」なものであり、削減していくのは望ましい。また、生産性向上により、価格が安くなれば消費者にとっても望ましいものだ(消費者の支出の改善)。しかし、日本では「無駄」(非効率な部分、消費者価格高い)が残っているから、失業率を低く保つことができた可能性があり、これにより、所得格差が他の国よりも低くなっている可能性もある。 

スマホなどの技術革新で消費者の支出は恩恵を受けた(便利になり支出が減った)一方、業種別にみれば、出版業界、音楽業界、カメラメーカーなど多くが打撃を受けた(これらの業種の給与(一部消費者の収入)の減少)。

今後さらに人工知能などの技術革新による業務効率化・生産性の向上が進むことになる。経済を良くするには、消費者の支出だけでなく、消費者の収入もバランスよく改善していく必要があるのだ。

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 (参考)

 

 

金融政策の限界

(久々のアップです)

基本的に、個人がお金を使ってモノやサービスを買うことで景気は良くなっていく。f:id:beatle_hat:20160911175414j:plain

財政政策と金融政策の違いは下のとおり。個人や企業に直接的に働きかける財政政策の効果は大きい。

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 金融緩和では、銀行に現金が積み上がるが、企業・個人までは回らない。

アベノミクスで実施した政策は次のとおり。

金利が下がったからといって、個人が住宅ローンを増やしたり、企業が投資の借り入れを増やす明確な傾向は見られない。逆に今の借り入れの借り替えが起こり、銀行の収益を圧迫した。(銀行にお金がたまっている状態だ。)

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 なお、マネタリーベースが増えたのにマネーストックが増えていないのは、次の図を見れば分かると思います(個人・企業に行きわたっていない)。

しかし、日銀の金融緩和の総括はどういう結果になるのでしょうね。

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(参考)

 

 

 

固有ベクトルの意味(数学メモ)

平面(2次元)では、一次独立な2本のベクトルで、(ベクトルの加法とスカラー乗法で)全平面を表せる。(x,y)=x・(1,0)+y・(0,1)であり、(1,0)と(0,1)が一次独立な2本のベクトル(基底ベクトル)ということである。ここで、基底を変えてみる。例えば、(1,1)と(-1,1)を基底ベクトルとすれば、次のとおり新しい座標系ができる。(座標変換後の座標はPの逆行列を左からかければ求まる。ここで、Pは新しい基底ベクトルを並べた行列。)

 

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http://www.math.ryukoku.ac.jp/~tsutomu/LA1/11/lecture1103.pdf

 

 この新しい基底ベクトルの取り方は無数にあるが、ある一次変換に対し、新しい基底ベクトルを固有ベクトルとすれば、簡単に一次変換を表すことができる。

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 算式で表せば次のとおり。 

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役員報酬と利益偏重

〇日本の役員報酬が高額化している。

 

〇欧米と日本の働き方等の違いは次のとおり。

欧米タイプ

日本タイプ

個人主義・利己主義

(他人をけり落とす)

全体主義

(出る杭は打たれる)

仕事とプライベートを明確に分ける

仕事とプライベートを混同(飲み会でも仕事の話)

トップダウン(経営陣主導)

ボトムアップ(現場主導)

上司が即時決定

上司で話が決められないので決定に時間がかかる

上司は部下の業務内容を熟知

上司は部下の業務内容の詳細は知らない

経営陣の独創主導

従業員の改善主導

経営陣が遅くまで働く

従業員が遅くまで働く

2層化(エリート(経営者)とノンエリート(労働者))

2層化しているが一体的

能力主義(仕事ができれば年齢に関係なく昇進)

年功序列(仕事ができなくても昇進)

経営陣の報酬高額

経営陣の報酬は欧米ほど高くない

上司優秀

部下優秀

効率的

非効率

即戦力重視(エリート学生は大学で猛勉強、ノンエリート業務はマニュアル化)

育成重視(学生は大学で遊ぶ)

転職前提

終身雇用

利益至上主義

社会貢献主義

株主重視(従業員給与は減らす方向)

従業員重視(従業員給与は増やす方向)

貧富の差が生じる方向

貧富の差はあまり生じない

 

アベノミクスの推奨する利益重視・株主重視になるほど、日本の会社は、これまでの日本的な社会貢献主義・従業員重視から欧米的な会社に変わっていく。非正規が多くなり貧富の差が進むという望ましくない方向に変わっていくのだ。

「アベノミクス 第三の矢」としてのコーポレートガバナンス改革|EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 「レポート」|EY総合研究所

 

 

人口減少ボーナス

〇人口オーナスのオーナス(onus)とは、「重荷、負担」という意味。働く人よりも支えられる人が多くなる状況である。日本では、少子高齢化が顕著になってきた90年頃から人口オーナス期に入ったとされる。 

http://www.meti.go.jp/committee/summary/eic0009/pdf/014_04_00.pdf

 

〇生産年齢人口(15~65歳)の人口割合の各国年次推移(G20、1990~2014年)は次のとおり。日本は、他国に比べ生産年齢人口が急減している。なお、この急減は、日本の死亡改善(長寿化)が他国よりも良好なことによる高齢者割合の上昇も要因のひとつ。

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〇若年齢層(15歳未満)の人口割合の各国年次推移は次のとおり。日本は、低下傾向だが急減してはない(ドイツ、イタリアと同水準)。先進国の割合は、全般的に低下傾向。

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(参考)主なアフリカ諸国の若年齢層の人口割合は次のとおり。多くの国は40~50%程度と高い水準を維持。

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〇女性の活躍がアベノミクスに掲げられている。女性の割合の各国の年次推移は次のとおり。日本も含め全般的に女性割合は50%程度。

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〇日本では生産年齢人口が減少していくのは事実だ。このため、日本で経済成長させていくためには、生産性の向上が必要とされている。この「生産性の向上」は「仕事が減っていく」ということだ。ロボットが受付をする「変なホテル」は、世界一生産性の高いホテルを目指したものだ。確かに従業員は少なくて済むので、生産性は大幅に向上する。

 

・アマゾンが指向しているのは究極の生産性であり、経営者のみ、すなわち従業員ゼロで、米国全土の流通を担うのだ。企業から自動運転トラックにより商品を受け取り、巨大倉庫は機械で一括管理し、インターネットで注文を受け、配達はドローンだ。この究極の生産性により、アマゾン以外も含めた流通業者である数百万人の雇用は消失するのだろう。 

 

〇生産性が急上昇していけば、雇用は減少していく。これは貧富の格差を拡大させることとなる。すなわち、仕事に就ければ高い生産性による給料獲得の一方で、以外の人は職に就けない状況になる。その結果、株主中心の資本主義は修正され、次第に大きな政府に移行していくこととなる。その際には大きな混乱を招くだろう。

 

〇日本では非効率性を保ってきた(この意味は利益至上主義ではない、ということ)。この非効率性が、ある意味で雇用者を守ってきた。ただ、今後はグローバル化推進で、見直されている。すなわち、大手企業のなりふり構わない利益至上主義だ。

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〇日本でも今後、生産性の向上が急上昇していくだろう。大企業は、これに向けて着々と準備を進めてきた。すなわち、非正規雇用の増加だ。正規雇用者は簡単には解雇できないが、非正規雇用者は簡単に解雇できる。景気の良いときは雇用を増やし、生産性が向上する、もしくは、景気が悪くなったときに解雇することになる。これは、スペインで行っているのと同じ。

 

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〇生産性向上に伴い日本でも雇用数は減少していくだろう。ただし、生産人口自体が減少していくので、他国よりも大きな混乱は生じない可能性が高い。これが日本の人口減少によるボーナスなのだ。(ただ、これは移民政策により移民を大規模な受け入れを行わない前提だ。将来の若者の職の確保のためには、移民の増加は反対すべきなのだ。)

 

リカードの比較優位

リカードの唱えた比較優位とは、各国が得意な分野に特化することで、全体の享受できる利益が上がること。TPPなどの自由貿易を推奨する根拠になっている。

比較優位 - Wikipedia    

交易の利益(富山大学)

 

〇この比較優位は、数学で言えば、2直線の高さ(絶対優位)ではなく、2直線の傾き(比較優位)が重要ということである。次のモデルを考える。

・A国とB国は貿易しておらず、ともに車と米を生産。

・A国で車5台、米5kg生産していて、車の生産を1台増やせば、その分、米の生産が1kg減る。また、B国では車3台、米3.2kg生産していて、車の生産を1台増やせば、その分、米の生産が1.6kg減る。

・すなわち、A国は車だけ作れば10台、米だけ作れば10kg。B国は車だけ作れば5台、米だけ作れば8kg生産できる。グラフは次のとおり。A国はB国に対して絶対優位(A国の高さが高い)である。

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・ここでA国とB国が貿易を行った場合、生産を減らしても貿易で商品を融通できる。A国が車1台増やして、B国が車1台減らせば、A国とB国の合計で車の生産量は変わらない。しかしながら、米の生産量は合計で0.6kg増加する(=A国の米の減少1kgとB国の米の増加1.6kg)。(これは2直線のそれぞれの点から、左右分かれて高い方に進むイメージ)

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・A国がもっと車の生産に、B国がもっと米の生産にそれぞれ特化すれば、1つの解として、車9台(A国9台、貿易前は8台)、米9kg(A国1kg、B国8kg、貿易前は8.2kg)と、これまでの合計の生産量を上回ることが可能だ。

 ⇒絶対優位性にかかわらず、比較優位なモノに注力することで、合計での生産量が増える(消費量が増える)。すなわち、貿易により、各国が得意な分野に特化することで、全体の享受できる利益が上がることになる。

 

〇このリカードの経済モデルでは、単純化したモデルなので当然のことながら現実とはあっていない。最もあっていないと感じるのは、収益性を考慮しない部分だ。国の生産を担うのは大部分が企業であり、企業は収益性(利益)を中心に行動する。先ほどのモデルでは車1台と米1kgとは比較できないが、企業の論理では比較できる。すなわち、どちらがどれだけ利益が出るかなのではないか。

・1980年代の中国における繊維業の特化は、リカード比較優位で説明される場合もあるが、人件費が安いことによる収益の優位性による企業の論理だ(企業の理論は「何かもうかるのか」ということ)。

 

〇日本国内の都道府県間は、自由貿易だ。リカードの理論ではなく、都道府県における収益優位が働いて今の生産状況になっているのだろう。 

 

自由貿易では、企業の論理に基づき、その国の中で他国に対し相対的に収益性・生産性の低い業種は淘汰され、寡占・独占が進むということを意味する。生産性が高まることで大企業は更に強くなり(TPPのメリットを享受)、貧富の差を更に拡大させていくのだ。