量的金融緩和と円安
〇これまでの日銀の量的金融緩和は基本的に円安政策だ。2016年から円高に向かっているのは、(マイナス金利の導入の一方で、)量的緩和から質的緩和に方向転換した失望感からだ。円安のためにはボリューム(量)により金融緩和を更に拡大しているというメッセージが必要ということ。
〇アナリストにとって株価が上がることが基本的に望ましい。アナリストの所属する証券会社の手数料が増えるからだ。金融緩和でアナリストが量(ボリューム)を求めるのは、量的緩和により円安となり日本株が割安 ⇒ 株価が上がるからだ。これまでの日銀政策の状況からは、アナリストは量的緩和がインフレや景気改善に大きな効果があるとは思ってはいないだろう。アナリストにとっては基本的に「株価が上がるか」が重要なのだ。
【日銀 追加緩和 可能性】リフレ派 日銀政策批判 エコノミストも「金利」重視反発 4ページ
〇ただ、日銀のミッションは物価政策(今はインフレ誘導)であって、為替政策ではない。米国も気にしている。黒田総裁は量の更なる拡大も考えているようだが、それは円安誘導につながることとなる。更なる量的拡大には慎重な判断が必要となる。
アベノミクスとトリクルダウン理論
〇トリクルダウン理論とは、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」とする経済理論または経済思想で、サプライサイド経済学における中心的な思想だ。(しかし酷いネーミングだ。)
〇アベノミクスはトリクルダウンを狙ったものだ。
〇アベノミクスの狙いは次のとおり。会社の利益は、①会社、②株主、③従業員、④消費者で分け合うこととなるが、特にアベノミクスでは「③従業員の賃金上昇」で景気回復を狙ったものだ。(①の会社による投資もあるが、投資先の会社と合計で見れば賃金上昇が狙いと考えて良いだろう。)
それぞれどうなったか見てみる。なお、2014年度の企業の純利益は41兆3101億円と10%も増えた。これは、アベノミクスの思惑どおりだ。
①会社の内部留保は、2014年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の期末の利益剰余金は354兆3774億円と1年前に比べて26兆4218億円も増えた。率にして8%の増加である。
②2015年度の株主配当総額は前年度より1割多い10兆9000億円と初めて10兆円の大台に乗せるとのことだ。
③従業員の給与の上昇は見られない(2015年3月時点)。失業率が4%まで低下したら上昇するとのこと。
④物価の下落が見られている。会社は利益を商品価格の引き下げに回していることになる。これは消費者への利益還元となる。
〇以上、現時点では「③従業員の賃金上昇」は見られない一方、①、②、④は進んでいることが分かった。会社は利益が出れば、まずは競争で激化した商品価格を引き下げ、従業員の賃金上昇は後回しになるのだろう。この会社の行動はデフレを促進させるものであり、(供給側の視点で緩和すれば景気が良くなるという)サプライサイドの理論は今の日本には無理があると思う。
(参考)
働く意識とワンピース
〇社会主義の旧ソビエト連邦での「働かざる者食うべからず」とは、資本家自身が実際に働かず投資で食べていることを戒めるものであった(資本家は搾取するのではなく、しっかり働けということ)。
〇日本では、「働かざる者食うべからず」は、「働ける者は食べていくために働け」という労働者に対するものだ。第二次世界大戦における敗戦後、日本に資源がないことから、日本国民は、他の国よりももっと働かないといけない意識があった。そして働くことが尊いとされていた。
〇戦後の経済成長は大きく3つ(高度成長期(1954~1973年)、中(安定)成長期(1973~1991年)、低成長期(1991年~))に区分できる。それぞれの働く意識を見てみる。
〇 平均年収で見てみると、中成長期も着実に賃金は上昇しているので、働きがいはあったと見れる。低成長期に賃金上昇が止まっている。
〇生活の質(耐久消費財の普及)で見てみる。低成長時代の2000年頃には、車・エアコンもほぼ普及し生活の質はある程度満たされたと言える。そのため、がむしゃらに働くという意識はなくなったのでないか。この2000年は、パソコンやインターネットが広く利用されるようになってきた時だ。
〇生活向上で見ると、オイルショックにより、中成長期に入って急激に「生活が低下している」と感じている人が増えたが、低成長期で更に悪化した。
〇新入社員の働く目的は、2000年以降、経済的豊かさ(仕事重視)よりも、楽しい生活(仕事以外を重視)に比重が変わってきた。2000年はインターネットが普及・ゆとり教育実施の時期だ。情報量が飛躍的に増加したことによる楽しみ方の多様性増加や、頑張らなくてよいという意識の変化意識が起こった可能性がある。この背景には、上のとおり賃金上昇が見込めなくなったことや生活の質が十分に満たされていることも要因だろう。
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/dl/1-02-4.pdf
〇政府もワークライフバランス(仕事以外も重視)を推奨している。
〇ただし、一生懸命に働くということがネガティブになってはいけない。過去の日本の経済成長は夜も寝ずに働いた先人のおかげでもある。日本の良質なモノづくり・おもてなしはこの働きによって成り立っている部分もある。当然ながらブラックな労働は排除されるべきである(形式だけの無駄な業務は排除されるべき)が、勤労そのものは尊重されるべきだ。
〇ワンピース作者 尾田氏の過度な働きぶりが批判されている記事があった。
ワンピース・尾田栄一郎先生のブラックな仕事ぶりが話題に!一方、冨樫先生は? | やらおん!
ワンピースの(質・量とも十分な)面白さは、この尾田氏の働きによって読者に提供されているのだ。政府のワークライフバランスの推進も、((判断は難しいかもしれないが)個人意志での)過度な働きぶりを批判することの無いように十分に注意してほしい。
P.S.尾田さん、ありがとうございます。無理はなさらないように。一(いち)ファンとして応援しています。
NASAの憂鬱
NASAとは関係ないが、例えば、火星に関しては蛇らしき生物が発見されたと話題になった。(うーん、ひび割れに見えますね。)
例えば、火星に「前方後円墳」らしきものが発見されたことも話題になった。(丘ですかね。)
【朗報】火星に「前方後円墳」が発見される!日本に文明を伝えたと主張!|面白ニュース 秒刊SUNDAY
期待が高まるが、実はNASAは2010年にも予告の経験がある。NASAが「宇宙生物学上の発見について」と題した会見予告を公表。米CBSや、CNNのニュースブログは「地球外生命体発見か」と報じ、国内の一部新聞社やテレビ のワイドショーも取り上げた。インターネットなどを通じて全世界で計数万人が視聴したが、「ヒ素を食べる細菌の新発見」「 DNA ベースではない生命形態」との会見内容に 肩すかしを食らった。(煽られてなのかは分からないが、)この内容は、日本経済新聞の1面を飾った。
(「NASAけない」、「いい加減にしNASAい」、「世間を知らNASAすぎる」、などのネット意見あり。)
〇 今回の件、次のHPに詳しく載っています。
このブログでは2010年のNASAの発表内容は実は誤りであったこと、今回の発表は、「火星に流れる水が存在する可能性がある」という内容であることが書かれている。今回の件もすごいことかも知れませんが、一般的なインパクトは小さいですね。
〇やはりここで問題になるのは「なぜNASAは予告するのか?」という点です。2010年の際にも今回も、縮小される予算の問題ではないか、と言われています。NASAの予算はアポロ計画時(ソ連と競い合った宇宙競争時代)からは大幅に縮小しています。
〇ただ、最近は予算の縮小傾向は見られません(2014年は176億ドル)。日本の方がハッキリとした縮小傾向です。
http://www8.cao.go.jp/hyouka/dokuritsu/bunkakai/utyu1th/shiryou5-12.pdf
〇以上を踏まえて、なぜNASAが話題作りをするのか理由を3点考えてみました。
(2)(ネットで言うとおり)予算確保のため
オバマ大統領は過去にNASAの計画を中止に追い込んだ経験があります(有人月面探査を目指す計画について、多大なコスト超過等から2004年に中止しました。その後、NASAと科学界が強く反発したため、オバマ大統領は月から有人火星探査計画に変えました)。その経験からNASAは実績作りを焦っているのでは、とも考えられます。
また、スペースXなどの安くすむ宇宙開発の可能性も高まっています。NASAの存在意義を示す必要があります。
(2)「驚くべきことである」という純粋な科学者の社会的使命感のため
NASAのモットーは、「すべての者のための利益」です。
なお、今年は気象予報も行いました。(日本ではその予報は当たらなかったと思います(台風は多かったですが)。)
(3)(インパクトがあまりないと分かっていた上で)話題作りを先行するため
ある教授は2010年に「科学的には面白い話だけど、成果を大きく周知したいNASAの 思わせぶりな作戦にメディアもみんなもうまいことやられたね」と話している。
〇以上、いろいろと考察したが、「予算確保のため」が目的なのであれば、JAXAは「煽るようなまね」をしないでほしい。探査機「はやぶさ」の例もありJAXAの素晴しさは認識しています。また、NASAは軍事に走らないようにくれぐれもお願いしたい。米国だけでなく「すべての者のための利益」に。
劇訳表示。 : 北朝鮮「米まで届くミサイル用エンジンの実験に成功!」【海外反応】
(参考)
人口減少ボーナス2
日本の人口減少によるボーナスについては、過去にブログに書いた。
安倍首相も同様のことを言った。人口減少を課題視する風潮を変えたいのだろう。
「日本は高齢化しているかもしれません。人口が減少しているかもしれません。しかし、この現状が我々に改革のインセンティブを与えます。日本の人口動態は、逆説的ですが、重荷ではなくボーナスなのです」
改めて確認すると、確かに人口は減少する見通しだ。2030年では、2013年から8%減少する。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf
生産年齢人口の減少は、単純平均で毎年0.8%だ。
一方で仕事の減少を見てみる。どれだけ生産性が向上したのか見れば、(需要が増えていない状況では、)仕事の減少につながる。
(1)経済学者の飯田泰之は「放っておいても人間は毎年平均2%ずつくらい効率が上がる。効率化の原因は機械だけでなく、知識・思考法も生産性を向上させる。経済成長が0%だと、必然的に要らない人がでてきてしまう」と言っている。(飯田泰之・雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、170-171頁。)
毎年2%効率が上がるというのは、毎年2%仕事が減るということだ。
(2)オックスフォード大学のオズボーン准教授は、今後10~20年程度で、約半分の仕事がなくなると予測している。20年後とすれば仕事の減少は平均的に毎年2.5%(=50÷20)だ。
(3)OECDデータでは、日本の一人当たりの労働生産性は毎年1.2%改善してきた。 出典:OECD
資料:GLOBAL NOTE(http://www.globalnote.jp/post-10473.html)
以上、例えば(2)なら仕事の減少が毎年ー2.5%の一方で、人口の減少は毎年ー0.8%にとどまる。人口減少を上回って、仕事は減っていくため、単純に言えば、その差の1.7%は失業ということになる。すなわち、人口減少はより失業を減らせるという点で、ボーナスなのだ。
(当然ながら、新たな業務に取り組むことや、一人当たりの業務を減らすことなどがあるので、その分すべてが失業率に結びつく訳ではないが。)
安倍首相は「人口減少はボーナス」と説明した同じ講演で、「世界最速級のスピードで永住権を獲得できる国になる」とも言っている。また、1億総活躍社会を目指し、働く人を増やそうとしている。これらの「働く人を増やすこと」(労働供給)は、人口減少ボーナスにはつながらず、失業者が増えることにつながる。政府主導で弁護士資格を増やして辯護士の失業者が増えたような過去の失敗は繰り返さないように、まずは1億総活躍社会などの「労働の供給」を増やすのではなく、仕事そのもの(GDPを600兆円に増やすためにも公共事業などの「労働の需要」)を増やすことに取り組んでほしい。
(参考)
生産性向上と消費者の収入(給与)
日本は国際的に見て労働生産性が低い。その要因は、
・生産者サイドの要因(フレックスが発達していないなどの労働時間の硬直性や
経営判断が遅い等)
・消費者サイドの要因(より品質の高いものを要求する等)
・社会環境変化による要因(個人情報保護、インターネットなどの風説流布等)
が挙げられる。
比較として挙げられる国は、例えばノルウェーとギリシャがあり、これらの国よりも日本は労働生産性は低い。
なお、 ノルウェーはフレックスなどの働き方が発達しているなどの違いがあるが、人口が500万人であり、人口1億2千万人の日本と単純な比較は難しいと考えている。また、ギリシャの人口は1千万人で日本よりも同様に少ないという要因もあるがそれよりも、ギリシャは非常に高い失業率が影響していると考えている。すなわち、景気悪化で、賃金の引き下げにつながっていること(生産性は向上)や生産性の高い企業しか残っていないということだ。
会社経営者は「無駄」を省いて生産性の向上を高めてきた。この生産性の向上は基本的に(生産量が変わらなければ)業務が減るため、給与のカットにつながってしまう(収入の減少)。(極端な話、賃金カットすれば生産性向上につながることになり、ギリシャと同じになってしまう。)これは、結果として消費(支出)の減少につながり景気を悪化させる可能性がある(いわゆる合成の誤謬)。
非効率な業務や賃金は生産性を低くさせる。これらは、生産性向上の観点から「コスト」であり「無駄」なものであり、削減していくのは望ましい。また、生産性向上により、価格が安くなれば消費者にとっても望ましいものだ(消費者の支出の改善)。しかし、日本では「無駄」(非効率な部分、消費者価格高い)が残っているから、失業率を低く保つことができた可能性があり、これにより、所得格差が他の国よりも低くなっている可能性もある。
スマホなどの技術革新で消費者の支出は恩恵を受けた(便利になり支出が減った)一方、業種別にみれば、出版業界、音楽業界、カメラメーカーなど多くが打撃を受けた(これらの業種の給与(一部消費者の収入)の減少)。
今後さらに人工知能などの技術革新による業務効率化・生産性の向上が進むことになる。経済を良くするには、消費者の支出だけでなく、消費者の収入もバランスよく改善していく必要があるのだ。
(参考)
金融政策の限界
(久々のアップです)
基本的に、個人がお金を使ってモノやサービスを買うことで景気は良くなっていく。
財政政策と金融政策の違いは下のとおり。個人や企業に直接的に働きかける財政政策の効果は大きい。
金融緩和では、銀行に現金が積み上がるが、企業・個人までは回らない。
アベノミクスで実施した政策は次のとおり。
金利が下がったからといって、個人が住宅ローンを増やしたり、企業が投資の借り入れを増やす明確な傾向は見られない。逆に今の借り入れの借り替えが起こり、銀行の収益を圧迫した。(銀行にお金がたまっている状態だ。)
なお、マネタリーベースが増えたのにマネーストックが増えていないのは、次の図を見れば分かると思います(個人・企業に行きわたっていない)。
しかし、日銀の金融緩和の総括はどういう結果になるのでしょうね。
(参考)