トランプ勝利の本質
〇人間には「もっと知りたい」(知)と「もっと欲しい」(財)という欲求がある。それらの欲求は次の「技術進歩・効率化」と「財の偏り」につながる。「小さな政府」で貧富の差が拡大するのは、この財の偏りが進むということで、「大きな政府」ではこの偏りを富の再分配で是正する。
①技術は進歩し、効率は加速して進む。(知の継承)
⇒ 技術革新は進む。グローバル化も効率化に伴うもの。
②自由であれば、持つものはより多く持つようになる。(財の継承)
⇒ 貧富の格差が拡大
〇現在は世界的に「小さな政府」を志向している(グローバリゼーション)。18世紀のアダムスミスの唱える小さな政府(自由放任主義)では、貧富の拡大や経済変動のブレ(恐慌)が問題となり、ケインズの唱える大きな政府(福祉国家)に転換。20世紀には、大きな政府には「財政赤字拡大」などの課題があったことから、「小さな政府」(古典的自由主義)に回帰していた。これをトランプ勝利で大きな政府を志向していくということだ。
したたかな富裕層
〇アメリカ大統領選挙でトランプ候補が支持を集めているが、この大きな理由は格差問題によるものだ。移民問題も格差問題から来ているものだ。
〇この格差問題は小さな政府を志向しているためだ。小さな政府は格差を拡大する(富裕層と貧困層が断絶)。グローバル化も小さな政府が目的だ。
〇日本でもグローバル化が推奨されている。最近の日本での富裕層にお金を集める仕組み(日本版トリクルダウン)は次のとおり。
〇格差を図る指標としてはジニ係数がある。ジニ係数が高いほど所得分配が不平等。
資料:GLOBAL NOTE 出典:OECD
〇収入も格差要因だが、富裕層と貧困層を断絶する大きな要因には教育問題もある。富裕層が教育が受けられる割合が高いほど格差が広がる。米国では、「小さな政府」進行の結果、教育費の高騰が問題になっている。高学歴者は富裕層が多数を占め、大企業やマスコミ、政府、大学に就職し、「グローバル化」などの飾られた言葉で、学者による提唱、マスコミの賛美、政府による実施など富裕層に有利な政策を行っていく。そうすることで富裕層コミュニティをさらに強固にしていくのだ。
〇日本でも富裕層ほど子供の学力が高い傾向にある。
〇格差を図る指標はジニ係数だけでなく、大学生の家庭の収入の分布で図るべきだ。仮に大きな偏りがある場合(収入の高い家庭の割合が大きい場合)は、格差が進んでいるとして、消費税減税、相続税増税、累進課税推進などの格差是正政策(所得再分配推進)を行っていくべきだろう。
金融政策の限界
〇もともと金融政策が限界なのは明らかだった。
〇日本は他の国に比べて、デフレの年季が違う。頑強、強固なデフレだ。節約術、クーポン、割引が世間に溢れているがこれは、デフレを進行させ、景気には逆効果だ(節約されて日本全体で買われる量が増えれば別だが)。消費者物価上昇率も過去から基本的にマイナス。
資料:GLOBAL NOTE 出典:OECD
〇2014年に物価が上昇したが、価格を上げた会社の業績は失速(商品が売れなくなって)。2015年の物価は低下。(ユニクロの失速は2度の値上げによるもの。)
〇日銀の責務は、物価安定だ。物価が下がり続けている現状では、インフレ目標を設定することは望ましい。ただ、物価上昇は景気回復が前提だ。景気回復によりモノを買う人(需要)が増えるからモノの価格が上がるのであって、景気回復のためにはまずはモノを買う側である家計にお金が届くことだ。
〇金融政策は家計にお金が届くという意味で効果が薄い。すなわち、金融政策は家計に「お金を貸す」(①)ことであり返していく必要があるが、財政政策は基本的にお金を返す必要がない。すなわち、財政政策は「給料で払う」(②)、「タダで渡す」(③)であり金融政策よりも景気回復効果が高い。(効果は①<②<③)
〇日銀総裁が財政政策との協調を重視する姿勢を示すなど、財政政策の必要性が少しずつコンセンサスになりつつある。今後、効果的な財政政策が実行されることを希望する。(一番効果的なのは家計に「タダで渡す」減税・手当、次に「給料で渡す」公共事業だが。)
中国が経済崩壊しない訳
〇中国がまたも2兆円の大盤振る舞いだ。
〇インドネシアの高速鉄道計画では、日本と競い合った結果、2015年に中国が受注に成功したが、それも大盤振る舞いの結果だ。
〇確かに中国の政府債務残高は大幅に増加してきている。ただし、米国の増加ほどではなく、日本よりもまだ少ない。他国の残高と比較すればまだ余裕があるということだろうか。なお、債務残高にはヘリコプターマネーはカウントされないので注意が必要だ。すなわち、お金を刷って、ただで地方や銀行に配る場合だ。これは自国通貨ならいくらでも可能だ(副作用はインフレ)。
・資料:GLOBAL NOTE 出典:IMF(政府債務残高対GDP比にGDPを掛けて算出。日本の債務減少理由は推測。)
〇株価(上海総合)でみれば中国は昨年、バブルが崩壊している。
〇ただし、株価が上がろうが下がろうが、元の投資額が減るわけではない。すなわち、おカネは消滅せず、人々の間を移っていくだけだ(天下の周りモノ)。すなわち、投資マネーはもともと余剰資金である限り、投資され続けるのだ。
〇借金して株に投資していれば破産だが、余剰資金で株を購入している限り経済に大きな影響は及ぼさない。中国の貯蓄率は高く、株等へのリスク資産への投資(投機)はアブク銭でやっているのではないか。(なお、グラフの日本の貯蓄率の低下は高齢化による資産の取り崩しによる。)
・資料:GLOBAL NOTE 出典:OECD
〇中国では相変わらずバブル(不動産バブル)が発生して、昨年、もう終わりそうだ。次のバブルは何だろうか。
(参考)
量的金融緩和と円安
〇これまでの日銀の量的金融緩和は基本的に円安政策だ。2016年から円高に向かっているのは、(マイナス金利の導入の一方で、)量的緩和から質的緩和に方向転換した失望感からだ。円安のためにはボリューム(量)により金融緩和を更に拡大しているというメッセージが必要ということ。
〇アナリストにとって株価が上がることが基本的に望ましい。アナリストの所属する証券会社の手数料が増えるからだ。金融緩和でアナリストが量(ボリューム)を求めるのは、量的緩和により円安となり日本株が割安 ⇒ 株価が上がるからだ。これまでの日銀政策の状況からは、アナリストは量的緩和がインフレや景気改善に大きな効果があるとは思ってはいないだろう。アナリストにとっては基本的に「株価が上がるか」が重要なのだ。
【日銀 追加緩和 可能性】リフレ派 日銀政策批判 エコノミストも「金利」重視反発 4ページ
〇ただ、日銀のミッションは物価政策(今はインフレ誘導)であって、為替政策ではない。米国も気にしている。黒田総裁は量の更なる拡大も考えているようだが、それは円安誘導につながることとなる。更なる量的拡大には慎重な判断が必要となる。
アベノミクスとトリクルダウン理論
〇トリクルダウン理論とは、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」とする経済理論または経済思想で、サプライサイド経済学における中心的な思想だ。(しかし酷いネーミングだ。)
〇アベノミクスはトリクルダウンを狙ったものだ。
〇アベノミクスの狙いは次のとおり。会社の利益は、①会社、②株主、③従業員、④消費者で分け合うこととなるが、特にアベノミクスでは「③従業員の賃金上昇」で景気回復を狙ったものだ。(①の会社による投資もあるが、投資先の会社と合計で見れば賃金上昇が狙いと考えて良いだろう。)
それぞれどうなったか見てみる。なお、2014年度の企業の純利益は41兆3101億円と10%も増えた。これは、アベノミクスの思惑どおりだ。
①会社の内部留保は、2014年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の期末の利益剰余金は354兆3774億円と1年前に比べて26兆4218億円も増えた。率にして8%の増加である。
②2015年度の株主配当総額は前年度より1割多い10兆9000億円と初めて10兆円の大台に乗せるとのことだ。
③従業員の給与の上昇は見られない(2015年3月時点)。失業率が4%まで低下したら上昇するとのこと。
④物価の下落が見られている。会社は利益を商品価格の引き下げに回していることになる。これは消費者への利益還元となる。
〇以上、現時点では「③従業員の賃金上昇」は見られない一方、①、②、④は進んでいることが分かった。会社は利益が出れば、まずは競争で激化した商品価格を引き下げ、従業員の賃金上昇は後回しになるのだろう。この会社の行動はデフレを促進させるものであり、(供給側の視点で緩和すれば景気が良くなるという)サプライサイドの理論は今の日本には無理があると思う。
(参考)
働く意識とワンピース
〇社会主義の旧ソビエト連邦での「働かざる者食うべからず」とは、資本家自身が実際に働かず投資で食べていることを戒めるものであった(資本家は搾取するのではなく、しっかり働けということ)。
〇日本では、「働かざる者食うべからず」は、「働ける者は食べていくために働け」という労働者に対するものだ。第二次世界大戦における敗戦後、日本に資源がないことから、日本国民は、他の国よりももっと働かないといけない意識があった。そして働くことが尊いとされていた。
〇戦後の経済成長は大きく3つ(高度成長期(1954~1973年)、中(安定)成長期(1973~1991年)、低成長期(1991年~))に区分できる。それぞれの働く意識を見てみる。
〇 平均年収で見てみると、中成長期も着実に賃金は上昇しているので、働きがいはあったと見れる。低成長期に賃金上昇が止まっている。
〇生活の質(耐久消費財の普及)で見てみる。低成長時代の2000年頃には、車・エアコンもほぼ普及し生活の質はある程度満たされたと言える。そのため、がむしゃらに働くという意識はなくなったのでないか。この2000年は、パソコンやインターネットが広く利用されるようになってきた時だ。
〇生活向上で見ると、オイルショックにより、中成長期に入って急激に「生活が低下している」と感じている人が増えたが、低成長期で更に悪化した。
〇新入社員の働く目的は、2000年以降、経済的豊かさ(仕事重視)よりも、楽しい生活(仕事以外を重視)に比重が変わってきた。2000年はインターネットが普及・ゆとり教育実施の時期だ。情報量が飛躍的に増加したことによる楽しみ方の多様性増加や、頑張らなくてよいという意識の変化意識が起こった可能性がある。この背景には、上のとおり賃金上昇が見込めなくなったことや生活の質が十分に満たされていることも要因だろう。
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/dl/1-02-4.pdf
〇政府もワークライフバランス(仕事以外も重視)を推奨している。
〇ただし、一生懸命に働くということがネガティブになってはいけない。過去の日本の経済成長は夜も寝ずに働いた先人のおかげでもある。日本の良質なモノづくり・おもてなしはこの働きによって成り立っている部分もある。当然ながらブラックな労働は排除されるべきである(形式だけの無駄な業務は排除されるべき)が、勤労そのものは尊重されるべきだ。
〇ワンピース作者 尾田氏の過度な働きぶりが批判されている記事があった。
ワンピース・尾田栄一郎先生のブラックな仕事ぶりが話題に!一方、冨樫先生は? | やらおん!
ワンピースの(質・量とも十分な)面白さは、この尾田氏の働きによって読者に提供されているのだ。政府のワークライフバランスの推進も、((判断は難しいかもしれないが)個人意志での)過度な働きぶりを批判することの無いように十分に注意してほしい。
P.S.尾田さん、ありがとうございます。無理はなさらないように。一(いち)ファンとして応援しています。