財政政策は人の為ならず

 〇6月8日のイギリス総選挙でメイ首相率いる与党・保守党は議席数を12議席減らし過半数割れとなった。メイ首相は就任当初から「2020年まで総選挙は実施しない」と発言していたが、「ブレグジット」を円滑に進めるため、4月の保守党支持率が高い状態を受けて、総選挙の前倒しを決定していた結果だ。

 

敗因は、1つは相次ぐテロ(5月マンチェスター、6月ロンドン)を防げなかったこと、1つは緊縮財政だ。5月18日に発表された保守党のマニフェストでは高齢者の在宅介護の自己負担額の引き上げ等を掲げて国民の反発を受けた。対する労働党マニフェストで、国営の医療制度の拡充や教育予算の増額を盛り込み、支持を広げていた。

 

〇昨年度の流れであった英国のブレグジットトランプ大統領誕生は、本質的には移民による治安の問題ではなく労働者の仕事減少・収入減少に対する不安から来たものと考えている。移民に加えて、AIに象徴されるテクノロジー進展やスマホアプリによる既存サービスの駆逐などによる仕事の減少・収入の減少を国民は心配しているのだ。この流れを踏まえれば、メイ首相は、規制緩和とは逆のポピュリズム政策である財政政策を打ち出す必要があった

消費者と生産者 - beatle_hatの日記

 

〇 なお、EUの主要国であるドイツ、フランス、イギリスはリーマンショック以降、GDPが増加、移民人口は増加している。

・GDP成長率資料:GLOBAL NOTE 出典:国連

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・移民人口<資料:GLOBAL NOTE 出典:世銀>

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日本でも規制強化の流れはある。この6月1日から酒税法改正で安売りが規制された。小売店を潰さない(労働者を守る)規制強化だ。2006年の酒販免許の完全自由化という規制緩和が競争激化につながったのだ。 多くの施策に関し、労働者と消費者の利益は相反する。デフレが継続し競争過多となった結果消費者がこれまでも、そしてこれからも多大な恩恵を受けている今後は労働者のための規制強化を行いバランスをとる必要があるというのが国際的な流れだ。

アルコール市場動向―酒販免許規制緩和の行方 | インテージ 調査レポート ライブラリ

 

〇当然ながら消費者のための規制緩和も重要だ。行き過ぎた規制強化は消費者の損失が大きくなる。双方を考慮してバランスを考えることが重要だ。どちらが望ましいのかは個別施策ごとに判断する必要があるが、全体としては、現時点のデフレ下では競争過多なので規制強化が必要ということだ。

 

マスコミからは、財政政策はバラマキとして批判される。マスコミは「情けは人の為ならず」を「結局その人の為にならない(ので、すべきではない)」という意味で使っているように見える。しかし、情けは人の為ならず「情けは、いずれ巡り巡って自分に恩恵が返ってくるのだから、誰にでも親切にせよ」という意味だ。財政政策も同じく、仕事を与えることで、もらったその給与を別に使うことで景気が良くなってくる、いわゆる「金は天下の回りもの」だ(バラマキをするのは、一義的には必要な投資が民間でできないことからだが、自国産業維持や景気下支えの面がある)。ただ、過剰になればインフレや供給過多などの副作用はある。要はバランスなのだ。

 

〇規制を強化を進めても、スマホ・AIの進展により、仕事減少(効率化が進むので商品価格は下落)が更に進むと予想される。フリマアプリのフリルはCMで「販売手数料はばかばかしい」と言っている。メルカリを始めとしたフリマアプリは人気となり、これまで流通していなかった中古品が流通するという効果はあると思うが、ブックオフなどの既存の中古商品の流通業者は大きなダメージを受けている(中古商品にかかる仕事が激減)。また、それ以外にも様々な業界がスマホ・AIで破壊されており、今後もますます加速していくだろう。その方向性には逆らえないが、消費者の逸失利益バランスをとりつつ、 更なる労働者のための規制強化を検討していく必要があると思うのだ