そこまで言うなら法人税を増税すればいいのに

あごひげ海賊団 : 今回の消費増税ってこういうことだ

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〇大企業の消費税に対する考え

トヨタ社長「将来にツケ回さないよう消費増税を」 :日本経済新聞(2013年8月)

 豊田章男社長発言(抜粋)

「消費税を上げていくということに関しては賛成。次世代につけを回さないように、・・・(中略)・・・。ただし、(消費税を上げる際は)自動車だけにかかっている車体課税の廃止を同時にご検討いただきたいと申し上げた。」

この記事では、トヨタ社長の他、ほとんどの企業が消費税引き上げに賛同(賛否をはっきりしなかったのは日本チェーンストア協会会長のみ)しており、「次世代にツケ」を理由に大企業は消費税引き上げを推進していることが分かる。そこまで言うなら法人税増税すればいいのに。

 

「次世代にツケ」とは?

ここで、「次世代にツケ」と言っているが、これは、政府の公債発行残高がGDPに比べて高過ぎるという財務省の一大キャンペーンを受けたものである。なお、政府の公債発行残高とGDPと比べてもあまり意味はない(景気を良くしてこなかったのだから公債残高が高いのは当たり前だ)が、この迷信を信仰している人は多い。財務省は、景気回復を期待せず、税収安定化を目指している。

 

〇大企業からすると、ありがとう、これからもよろしく、というところか。

 

〇ちなみに、次の書籍にあるように大企業は税金を払っていない、というわけではない。

簡単に言えば、グループ企業では、子会社がちゃんと税金を払っている(親会社は払わない)ので、親会社だけ見ても駄目(グループで見れば大企業もちゃんと払っています)ということ。

 

トヨタが巨額の輸出戻し税」で利益を得ているというのも誤解。

輸出戻し税」は、仕入にかかった消費税(消費者が負うべきもので、企業は負担しない)は国内販売だと消費税を課して取り戻せるが、国外への輸出だと取り戻せないので、国から払い戻しを受けるもの。すなわち、「輸出戻し税」は仕入で支払った消費税が返ってくるだけで本質的な利益ではない。

 〇「損失時は非課税」という仕組み

トヨタ法人税を5年間も払っていなかったのは、リーマンショックで大きな損失を計上したからだ。法人税は利益に対して課税され、赤字だった場合には法人税は払わなくて良い。その後に利益が出てもその赤字分は何年間かは利益から控除できるのだ(単年度で利益がでても税金を払わなくて良い。繰越欠損金制度)。

損失の場合は法人税を払わなくて良いという主旨は、儲かっている企業から課税し、儲かっていない企業に対しては企業継続を促す(チャンスを与える)もので、その仕組み自体が望ましいものである。また、景気が悪化すればその悪化を緩和するという機能もある(「景気の調整機能」(ビルト・イン・スタビライザー))。ただ、この「損失時は非課税」という仕組みでは、税収は景気に大きく左右され変動する。この変動(悪化が続けば税収は低水準のまま)を財務省は問題視しているのだ。

 

財務省財政赤字を責められている。例えば、

IMFIMF、今年の世界成長見通し下方修正―日本には警告 - WSJ

・格付会社:日本国債、ダブルAマイナスに格下げ S&P :日本経済新聞

(なお、格付け引下げでも国債価格は上昇(金利低下)するので格付けの意味は全くない。S&Pは2011年の米国債の格付引き下げのときも米国債の価格上昇(金利低下)となり、米国政府の怒りを買っただけだった。)

外資系証券会社:ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦氏「消費税増税を決断できなければ海外投資家は失望」【争点:アベノミクス】

日本で国債残高がGDPを上回ったのはずっと前の話だが、昔は財務省も正論で頑張っていた(外国格付け会社宛意見書要旨 : 財務省、2002年に黒田財務官より格付け会社3社(Moody’s、S&P、Fitch)に発出した書簡要旨)が、何回も言われていると自分が悪いと信じてしまうのか。日本経済のことよりも、財政赤字縮小が目的になってしまっている。

財務省は、景気によらない安定的な租税収入を目指している(今後、景気を良くして税金を増やすのではなく、景気が悪くなっても税金をとりたいのだ)。その方針は主に、「消費税増税」と中小企業への「外形標準課税」(企業の利益水準によらない課税)の導入だ。租税収入を安定的にすればするほど、累進課税(高額所得者負担)から逆進税(低所得者の負担応力を超える負担)となる。これは、儲かる企業はさらに利益が増加するなど、貧富の差を拡大していく方策なのだが、これで良いのか?財務省の国民全体の景気をよくしようというモチベーションはどこへ行ったのだ?

法人税改革、地方税も争点に 政府が外形標準課税の拡大検討 :日本経済新聞

三木谷氏の推定23億円新居、時価上昇-アベノミクスで富裕層恩恵 (1) - Bloomberg

なお、日本の租税システムでは、税収を増やす一番の方策は景気回復だが、財務省は景気回復を主導で行うことはない(どこに使いたいという各省庁の予算を承認、否認するのみで、財務省が主導でどこに使えばいいという提言することはない)。財務省が、(財政悪化を各所から責められるのが嫌で)増税を熱望する気持ちも分からないではないが、日本経済を悪化させちゃ本末転倒だ。

 

 外形標準課税とは?

外形標準課税とは、企業は利益水準によらず事業規模に応じた行政サービスの提供を受けているという考えから、事業所の床面積や従業員数等に課税する方式。赤字企業でも税金を支払うため税収は安定化するが、景気(賃金や雇用)に影響があるため世界でも廃止する国が多い制度。

これは、法人税を払っていない7割の欠損法人から課税できる逆進税、大企業(富裕層)優遇制度ということ。(これにより、法人事業税の半分を外形標準課税にすれば、大企業は法人実効税率が1.5%程度下がる恩恵を受ける。)

 

〇大企業は、そこまで「次世代にツケ」というのであれば、自分から税金を納めるため法人税増税を提案しないのか?

・大企業は自分の利益を減らすような発言をすることは、株主への配当が減るから難しいのだろう。

財務省は、国際的に比較すれば日本は法人税が高いと感じており、企業の海外流出を回避し、日本に企業を呼び込むためにも法人税引き下げが必要と感じている。(海外企業の呼び込みは本当に必要なのか?)

国・地方合わせた法人税率の国際比較 : 財務省 

なお、平成26年度の政府予算では次のとおり(PDFの5枚目)

http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/sy014_26_02.pdf

平成26年度予算 税額  
所得税 14.7兆円  
法人税 10.0兆円  
消費税 15.3兆円 消費税増税(5%→8%)で4.5兆円増加

平成26年度では消費税引き上げで、財務省の思惑どおり、安定的な税収である消費税が所得税を上回る予定だ。一方で、法人税は一番低くなっている。

 

外形標準課税は、2015年度は中小企業に導入しない方針となったようだ。失政となるだろうアベノミクスを更に悪化させないための望ましい選択だと思う。

日本経済新聞の消費税増税の援護射撃

消費税引上げや法人税引下げに対する日本経済新聞の賛同記事はものすごいものであった(さすがに新聞の軽減税率は要望していなかったと思うが)。日本経済新聞が、大手企業のみに目を向け、中小企業や庶民の味方ではないということだ。ただ、日本経済新聞だけではなく他の新聞やアナリスト、経済学者のほとんどが消費税増税を推奨していたが。これまでそれぞれどんな発言をしていたかは、纏めてみたいと思っています。

 

〇租税の効果まとめ ( 租税 - Wikipedia )

租税には、「公共サービスの費用調達機能」、「所得の再分配機能」、「経済への阻害効果」、「景気の調整機能」(ビルト・イン・スタビライザー)の4つの機能・効果がある。景気が悪いときに税金が少なくなるのは4つ目の景気の調整機能」(ビルト・イン・スタビライザー)の効果であり、景気が良くなれば税収が増えて景気を冷ます効果をもつ。現在の日本の状況は、まずは景気を良くする(デフレを脱却する)ことが優先され、次のとおり景気を阻害するような逆進税化(消費財増税外形標準課税)は本末転倒なのだ。

累進課税 逆進税

税収は不安定

(景気が良いと増加)

税収は安定的

(景気によらない)

所得多いほど増加 一律課税(人頭税
所得税法人税 消費税、外形標準課税

景気過熱を冷ます

景気悪化を改善する

景気過熱を進める

景気悪化に悪影響

所得再配分

貧富の格差を推進
 利他主義判官贔屓 利益至上主義、利己主義
 庶民、中小企業に恩恵 大企業に恩恵
 

財務省推進

日本経済新聞推奨)