ANAホールディングスの片野坂社長、是非、消費税は引き上げない方向でお願いします。

自由経済を放置すれば、「持てる者」はより豊かに、「持たざる者」はより貧しくなる。トマ・ピケティの記した「21世紀の資本」のとおり、実績データからは一部の時期を除き、格差は拡大している。ピケティの指す「g<r」とは簡単に言えば、GDP<ROEということで経済成長率よりも(株主配当の原資となる)会社利益率の方が高い、いわゆるトリクルアップ(富裕層が更に裕福になっていく)だ。ただし、日本での格差は欧米ほどにはなっていないと考えている。格差回避の仕組みは異なるのだろうか

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トマ・ピケティ - Wikipedia

 

EU内の各国と日本の都道府県を考えてみる。EU各国・都道府県、それぞれ関税がなく自由貿易であり、また、それぞれで金融政策が行えない点でも同じだ。日本国内での格差を調整している仕組みの一つが、地方交付税交付金だ。経済状況などによる各都道府県の財政力を調整することを目的に政府が支払っているもので格差を縮小する仕組みだ。一方、EUではこういった仕組みがないことや、2008年以前のスペインの不動産バブル時代に、ドイツが不況だったため金融引き締めを行えなかったということなど、発言力の強いドイツ・フランスにEU全体の金融政策が引きずられるという傾向もある(その結果、スペインの経済はひどい状況となった)。更に言うと、ギリシャなどの弱い経済の国を取り込んでユーロを弱く(安く)した上で、ドイツは輸出を進めて利益を得るという、EUは各国の格差を生み出すシステムなのだ(PIIGSも全てユーロ、弱い国は弱く、強い国は強くなる)。各国でEU離脱論が話題になるのも頷ける。

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[国の財政] 歳出〜地方交付税交付金等〜 | 税の学習コーナー|国税庁

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fundo.jp

EU(欧州連合)の問題点 - 未来予想.com

日本でも財政赤字で苦しんでいる市町村として夕張市がある。北海道および日本政府は、債権の減免や交付金の増額など、可能な限り格差解消のために財政出動してほしい。(例えば、数兆円の財政出動をしたとしても頑強なデフレは崩せず、金利も若干上がるかどうかだろう。そのため、夕張市の負債は数百億円のため全く問題はない。財政出動貨幣の価値が低下するため金を持っているものが損する究極の格差回避であり、その意味で大企業や富裕層はもっともらしい理由をつけて反対しているのだ。) 

gendai.ismedia.jp

 

〇余談であるが、日本の選挙制度においては司法の観点からは、逆に格差は拡大する仕組みになっている。都道府県で経済格差が進むほど、それに連れて人口格差が生じる(景気の良い都道府県ほど人口が増え、以外は過疎が進む)が、一票あたりの議員数の公平性を保つために、人口(有権者)が減少すれば、その地方の議員も減少し、その地方の政府に対する発言権も低下していくという、格差が拡大する仕組みになっている。

 

・当然ながら、県民所得が大きいほど人口の増加率も大きい(景気の良い都道府県に人口が集まる)

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・その理由は、転職サイトでも分かる。 都道府県別の平均年収をオープンにしていて、転職先は平均年収の高い県に移っていく傾向にあるだろう。

都道府県別 平均年収・給料 特集-年収ラボ

 

もう一つ、欧米に対して格差を縮小するシステムが税率だ。相続税率が低いと財産が子供に引き継がれ格差につながるが、日本の相続税は他国に比べて相対的に高目になっている。所得税累進課税に関しては残念ながら最高税率は他国と同水準である(グローバル主義者の要請により大きく引き下げらた(最近は若干引き上げて他国と同水準))。逆進課税である消費税は他国に比べて相対的に低目になっており、これらが格差を縮小する要素となっている。

 ・主要国の相続税の負担率(2016年1月現在)

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主要国の相続税の負担率 : 財務省

 

所得税最高税率等  ( ← 残念ながら、他国と同水準 )

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個人所得課税の国際比較(日・米・英・独・仏) : 財務省

 

・消費税(付加価値税)の標準税率(2017年1月現在)( ← 日本は相対的に低く逆進課税が避けられている)

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税の国際比較 | 税の学習コーナー|国税庁

 

〇今後は、更に技術革新により業務効率化・情報革命が進むであろう。これらは基本的に消費者に望ましい一方で、労働者にとっては仕事が減少する負の側面を持つ。すなわち格差は今後更に拡大していくことになるのだ。そのため、格差拡大を避けるため、より大きな利益を得た大会社からの税金を再分配していくとともに消費税の引き下げが必要なのだ。 

 

ANAホールディングスの片野坂社長が消費税引上げを政府に迫っている。大企業にとっては、法人税減税で恩恵受けた一方で、庶民からの税金引き上げは必要と感じているのだ。ANAホールディングスの連結での親会社株主に帰属する当期純利益は、平成28年度で988億円と前年から、206億円も増加し好調だ。来年度も1,250億円と261億円増加する見通しだ。一方で、法人税率引き下げの恩恵もあって、平成28年度に支払う法人税、416億円と前年度から188億円減少した。法人税水準は決まりだから当然妥当であるものの、この減少分は政府の財政を確実に悪化させているのだ。是非とも庶民のことを考えるのであれば、消費税引き下げ(少なくとも平成31年度の消費増税は先送り)をお願いできないだろうか。